ALアミロイドーシスと
診断されたら
ALアミロイドーシスとは

診断されたら
- 監修:島崎 千尋 先生
京都鞍馬口医療センター 名誉院長
ALアミロイドーシスはどんな病気?
複数の臓器にアミロイドが沈着・蓄積する「全身性アミロイドーシス」のうち、非遺伝性で免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイドが原因のアミロイドーシスを「ALアミロイドーシス」といいます。骨髄*1の中にある白血球の一種からできた形質細胞*2が異常なタンパク質である免疫グロブリン軽鎖を過剰につくり出すことが原因となります。ALの「A」はアミロイド(Amyloid)、「L」は免疫グロブリン軽鎖(light chain)の頭文字からとった名前です。
ALアミロイドーシスでは、一般的に、腎臓、心臓、肝臓、神経、消化管に機能障害が起こります1)-4)。最も多くみられる症状は蛋白尿で、腎機能障害、うっ血性心不全、起立性低血圧、下痢、不整脈などが続きます(図1)4)。
ALアミロイドーシスは、全身性アミロイドーシスの中で最も頻度の高い病型です3)。また、多発性骨髄腫と診断される患者の約10~15%でALアミロイドーシスを合併するという報告もあります1)5)。
- *1
骨髄:骨の空洞を埋める軟組織で、赤血球や白血球が形成されます。
- *2
形質細胞:白血球の一種で、感染から人体を防護する抗体を産生します。
図1日本におけるALアミロイドーシスによる主な臨床症状

Shimazaki C,et al.Intern Med.2018;57:181-7.より改変
- 1)日本循環器学会,他.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.2020.p.9,p.11.
- 2)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 アミロイドーシスに関する調査研究班.全身性アミロイドーシス 指定難病の対象となる疾患分類.http://amyloidosis-research-committee.jp/diagnostic/(最終アクセス:2024年10月15日)
- 3)安東由喜雄(監).植田光晴(編).最新アミロイドーシスのすべて―診療ガイドライン2017とQ&A.東京:医歯薬出版;2017.
- 4)Shimazaki C,et al.Intern Med.2018;57:181-7.
- 5)Bahlis NJ,et al.Bone Marrow Transplant.2006;38:7-15.
ALアミロイドーシスの症状
ALアミロイドーシスは全身のさまざまな臓器で機能障害を起こすため、ALアミロイドーシスとして特徴的な症状は少なく、体重減少、疲労、息切れ、起立時のめまい、足首・脚のむくみ、手足のしびれや刺痛、泡立ち尿、交互に起きる便秘と下痢、食後すぐの満腹感など、さまざまな症状が生じることがあります(表1)1)2)。
表1AL アミロイドーシスが疑われる症状


日本循環器学会,他.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.2020.を参考に作成
ALアミロイドーシスの初期症状としては、全身の倦怠感、体重減少、むくみ、貧血などがあり、経過中に心不全、蛋白尿、感覚障害(しびれやジンジン感)、起立性低血圧(起立時のふらつきや失神)、手根管症候群(手首の靭帯にアミロイドが沈着することで神経が圧迫される状態)、巨舌、皮下出血などがあらわれることがあります2)-4)。
舌が肥大化する巨舌はALアミロイドーシスに特徴的な症状で、約10~20%の患者さんにみられるとされています1)2)。アミロイドの沈着・蓄積により舌が板状に硬くなり、舌が動かしづらくなるため、進行すると会話や食事が困難になることもあります。
海外における報告では、ALアミロイドーシスによる臓器障害は腎臓(74%)が最も多いとされ、続いて心臓(60%)、肝臓(27%)、末梢神経(22%)、自律神経(18%)と続きます2)5)。日本でも腎臓と心臓の障害が多く報告されています2)6)。
- 1)日本循環器学会,他.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.2020.p.9,p.17-8,p.21.
- 2)安東由喜雄(監).植田光晴(編).最新アミロイドーシスのすべて―診療ガイドライン2017とQ&A.東京:医歯薬出版;2017.p.113-5.
- 3)Falk RH,et al.N Engl J Med.1997;337:898-909.
- 4)Merlini G,et al.Blood.2006;108:2520-30.
- 5)Obici L,et al.Biochem Biophys Acta.2005;1753:11-22.
- 6)島崎千尋.臨床血液.2019;60:973-8.
ALアミロイドーシスの臨床所見
ALアミロイドーシスを疑う臨床所見には、さまざまなものがあります(表2)。
1.腎臓
腎臓内の糸球体、血管、尿細管間質にアミロイドが沈着・蓄積することで腎機能が障害されます1)。
具体的な症状としては、腎機能の低下により尿の中にタンパク質が大量に排出され、尿の粘稠度(ねばりけ)が高くなることで尿が泡立つことがあります。顕著な低アルブミン血症(血液中に存在するタンパク質であるアルブミンが、正常よりも低くなってしまう状態)、ネフローゼ症候群(尿にタンパク質がたくさん排出されてしまうために、血液中のタンパク質が減り[低蛋白血症]、その結果、むくみ[浮腫]が起こる病気)、末期腎不全(腎臓のはたらきが正常な腎臓の15%未満に低下し、体内の老廃物や余分な水分を排泄できない状態)に進展することもあります。
こうした腎機能の低下により、全身のむくみや腹水、胸水、尿量の減少、血圧の異常などが生じます。
2.心臓
心臓にアミロイドが沈着・蓄積することで、心臓の機能が障害されます。
心臓の筋肉にアミロイドがたまることにより、心臓が硬くなるため、一般的に、心室の壁の厚みが厚くなる心肥大や、心室の拡張期に異常が起こる拡張障害のほか、心臓筋肉の収縮力が低下する収縮障害、心臓内の電気刺激のつながりが悪くなる心ブロック、脈が速くなり打ち方が乱れる心房細動や心室性不整脈などを引き起こします2)。
また、心臓へ血液をくみ上げるポンプの役割が弱っているために起こるむくみ、肺に水がたまることによる息切れや呼吸困難、全身に血液が回らなくなるために起こる倦怠感、手足が冷たいなどの症状がみられます。そのほか、脈が遅くなることで、失神やふらつきを起こします。
心臓の障害は、ALアミロイドーシスでみられることが多く、予後(病気や治療の見通し)が悪くなることがあります。
心アミロイドーシスに関して詳しく知りたい方はこちら
3.肝臓
肝臓にアミロイドが沈着・蓄積することで肝臓の機能が障害されます。
血液検査の肝機能検査値の異常、飲酒やその他の原因のない肝臓の肥大、無痛性の肝腫大(肝臓が病的に大きくなること)2)などとしてあらわれます。また、まれに脾臓に沈着すると脾腫大が起こることがあります3)。
4.神経
末梢神経の組織にアミロイドが沈着・蓄積すると、手足のしびれや感覚障害、筋力低下などがあらわれます3)。
アミロイドーシスにともなう末梢神経障害をアミロイドニューロパチーといいます2)。両足先に強い感覚障害(しびれやジンジン感)が多いとされ2)、ときに痛みを伴います3)。手の人差し指と中指にしびれや痛みを生じる手根管症候群(手首の靭帯にアミロイドが沈着することで神経が圧迫される状態)も多いとされています3)4)。
自律神経に沈着すると、起立性低血圧(起立時のふらつきや失神)、下痢や便秘、排尿障害などがみられます。
5.消化管
食道や胃、腸などの消化管にアミロイドが沈着・蓄積することにより、蠕動運動(筋肉の収縮によって生じたくびれが波のように徐々に伝わっていく運動)の異常や吸収の異常、粘膜の脆弱性(傷つきやすさ、もろさ)などが生じます4)。
その結果、消化管の不調として下血、嘔気、食欲不振、腸閉塞(イレウス)、吸収不良症候群(食べたものに含まれる栄養素がさまざまな理由により小腸で適切に吸収されない状態)などの症状があらわれます。
また、これらの症状が重篤である場合には栄養障害(体が必要とする栄養素を十分に摂取できない状態のことで、体重減少や全身衰弱を呈します)をきたすことがあります4)。
そのほか、皮膚の肥厚、筋力の低下、甲状腺機能低下、唾液腺機能の低下、リンパ節が腫れるなど多くの臓器で異常所見がみられることがあります2)3)。
表2AL アミロイドーシスが疑われる臨床所見

越智友梨,他.Heart View.2020;24:1048-53./
安東由喜雄(監).植田光晴,他(編).21世紀の疾患 神経関連アミロイドーシス.医学と看護社:東京;2020.p.95-101. を参考に作成
- 1)厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 アミロイドーシスに関する調査研究班.腎アミロイドーシスガイドライン 2020.2020.p.4.
- 2)日本循環器学会,他.2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン.2020.p.9,p.17-8.
- 3)安東由喜雄(監).植田光晴(編).最新アミロイドーシスのすべて―診療ガイドライン2017とQ&A.東京:医歯薬出版;2017.p.113-5.
- 4)越智友梨,他.Heart View.2020;24:1048-53.